片や正義のために暴君を斬らんと命を賭して戦う男たち。片やその暗殺集団から主君を守るべく命を賭して忠義を尽くす男たち。
泰平の世にあって人を斬ったことのない侍たちが、要塞と化した宿場を敵味方入り乱れながら駆け抜ける。
返り血を浴び、自らも血を流し、汗にまみれ泥にまみれ、それでもなお命尽きるまで斬り合う壮絶な終盤は圧巻。
背筋がゾクゾクするほどに見応えある骨太のアクション時代劇だった。
冒頭いきなり始まる切腹シーン、その“音”が強烈だ。明石藩主松平斉韶(稲垣吾郎)の悪政に抗議すべく自害する家老の間宮(内野聖陽)。カメラは内野の苦悶の表情を捉え続けるのだが、腹を切り裂いてゆくその音が耳をふさぎたくなるくらいにリアル・・・。
他にも音でグロさを表現するシーンがいくつかあった。観た方ならわかるであろう「山猿の骨は硬いのう」のシーンもそう。刀を二度三度引く音とその後に聞こえる“ゴトン、ゴロゴロ・・・”はしばらく耳に残りそうだ。
斉韶が将軍家の血筋であるため、幾多の残忍な振る舞いに対し何の咎めも下せない幕府老中土井(平幹二朗)は、悩んだ末に目付の島田新左衛門(役所広司)に暗殺を命じ、ここに斉韶暗殺計画が始動する。
新左衛門はさっそく徒目付の倉永(松方弘樹)とともに仲間となる者を探し出し、やがて12人が集まるのだが、ここで一人一人の個性をより掴めるようなエピがほしかった。
目付の新左衛門、徒目付の倉永、小人目付の三橋軍次郎(沢村一樹)。この3人がそれぞれの配下から選抜したという構図はわかりやすかったものの、顔もよくわからないうちにその他大勢的な扱いになってしまったキャラがいたのが残念。「遅くてもお盆には帰る」と女に告げて仲間に加わる者や二百両を要求しその使途を語る者など、そういうちょっとしたシーン一つでぐっと感情が入りやすくなるものなのに。
全員やってもたったの13人。よその一団みたいに47人もいるわけじゃないんだからさ~(笑)
(ところで沢村が新左衛門の前で最初に名を名乗るときに、「色香恋次郎」と語呂が似ていて吹き出しそうになったのは私だけ?)
終盤の戦闘シーンはいい意味で予想が外れた。
それは移動バリケードやら爆破トラップやら火の牛やらが絶えず発動する中でのチャンバラでなかったこと。三池監督ならそういう派手な環境下での斬り合いを作ると思っていたわけだが、そうではなかった。
まずはこうした仕掛けで迎え撃ち、敵の数を減らしたところで文字通りの真剣勝負に突入する。後半は各人の殺陣だけをたっぷり見せるというこの二段構えの構成がエンターテインメントとして素晴らしい。
新左衛門の「斬って、斬って、斬りまくれーっ!」の掛け声にこちらまで力が入ってしまった。
殺陣について詳しいわけではないが、交互に斬りあう一連の動作が舞うようにさえ見えるテレビドラマのそれとは明らかに違っていたと思う。どこか泥臭く、なり振りかまっちゃいられない感が溢れ、そしてなにより強い殺気がビシビシ伝わってくるのだ。
中でも際立っていたのが松方弘樹。彼の殺陣はやはりさすがで、他の役者とは別格別次元。一手一手の立ち回りは流麗なのに、前述した舞いのような殺陣ではないのである。あくまでリアル。やっぱスゴイわ。
もう一人、非常にインパクトある殺陣を見せてくれたのが伊原剛志。
地面のあちこちにたくさんの刀が刺さった場所に敵を誘い込んでの一戦は、私的に本作一番の見せ場だった。共に戦う弟分に対しての一言がまずかっこいい。「俺の後ろにすり抜けたやつはお前が斬れ」だったか、そう言ってから多勢に切り込んでいく。
二手三手で刀を捨て、地面に刺さる別の刀を引き抜き次の一手。この立ち回りがよどみなく続く。しかも彼は二刀流なのである。つまりこの動作が両手で発生しているわけで・・・。いやあ、これは見事だった。いかにも剣豪浪人といった雰囲気もにじみ出ていた。見入ってしまい記憶が定かではないが、けっこうな長回しの殺陣だったかと思う。素晴らしい!
新左衛門が斉韶の側近鬼頭(市村正親)との一騎打ちを前に、刀に付いた血のりを肘で拭い取るシーンも印象的。単に切れ味を復活させるための行為だったのか、それともかつての同門のライバルでもある鬼頭を斬ることになる刀、その刃を清めるという敬意の表れなのか。これまたいいシーンだった。
さて。好き嫌いが分かれそうなのが伊勢谷友介と岸部一徳のアレ。もちろんこれが三池監督ならではの面白さでもあるのだが、さすがに悪ノリが過ぎたか。伊勢谷が演じるキャラ自体は好きだが、本作の場合こういう三池節をあえて封印する手もあったのではないだろうかねぇ。
ところで、ヴェネチアに出品され喝采を浴びたという本作。それなのに肝心の賞レースではなぜか忘れられてしまったらしい。
審査委員長のタランティーノがどうしてこれを推さなかったのか。モロ彼好みの映画だと思うんだけどなあ・・・。残念。
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この記事へのコメント
BROOK
ラスト50分の死闘は映画史に残るんじゃないかと思います。
上戸彩の「あずみ」の200人斬りなんて霞んでしまうくらい。
そうそう、岸辺一徳さんと伊勢谷さんのシーンはちょっとやり過ぎでした。
観客は笑ってましたけど、
映画祭ではカットされたみたいです。
rose_chocolat
若手でよかったのは波岡くんと窪田くんですね。 この2人、特に波岡くんは個別のエピソードなかったにも関わらず、立ち居振る舞いだけで印象付けるものがありました。 窪田くんは伊原さんとの掛け合いもよかったです。
ともあれこれだけ出ちゃうとそれもしょうがないけどね。。。
ベテラン勢の貫録にもまた酔いしれますね。
SOAR
そういえば最近疲れて劇場を後にする作品って、なんか多くありません?
精神的な面もあれば肩こりなど肉体的疲労を感じる作品もあります。
これは息抜きに映画を~なんて思っていると逆効果になりかねませんが、観るほうも力が入る作品ってやはりすばらしいですよね。
本作のラスト50分がまさにそれでした。
そうなんですか?なるほどなあ。映画祭参加にあたってはさすがに封印したんですね、監督。
SOAR
最初からリーダー格とその仲間たちという格の違いを見せ切れてない以上、腕前や歳の差以外はやはり13人に均等な扱いがほしかったなと。
あ、やっぱりあれが高岡くんね。そうじゃなくても最近の若手の見分けが付かなくなってきてるのに、だんだんと顔や着衣が血と泥でどす黒くなってくからそれぞれの最期に至ってはもう誰が誰やら(笑)
あれは明らかな油断ですが、あの王道的死に様はやっぱりドラマチックだよね。
窪田くんは待ち伏せ連中と一戦交えた後の演技が印象的でした。伊原剛志とのコンビもよかった~。
にゃむばなな
間を空けた瞬間に斬られる。その緊迫感を50分も続けてくれるなんて、さすが三池崇史監督!
ななんぼ
そうそう、国際ヴァージョンでは、殿が犬食いをするシーンと小弥太と宿頭のアーッなシーン(笑)と、お艶のラストショットはカットされているそうです。
yukarin
先日は5周年のコメントありがとうございましたっ。
冒頭の切腹シーンは妙にリアルでしたね、音が・・・うわっ。そのほか結構グロいシーンがありましたね。
50分にもわたる斬りまくりシーンは圧巻でした。
悠雅
確かに、13人のうちの数人の影が薄くて、元々、日本の若手男優に疎くて、余計によく見知ったベテランとか、
お目当てで観に行った人たちに注目してしまった感じでした。
13人をそれぞれ詳しく描いたらとっても長くなっちゃうから、思い切って端折って、後半の戦闘場面に重点を置いたということなんでしょうね。
人それぞれお目当てがあったり期待する部分が違っても、押並べて好評が多い作品ですね。
こういう日本映画、よくぞ作ってくれました。
SOAR
いわゆる時代劇のチャンバラはその一連の流れを楽しむ殺陣でしょうしそれはそれで見応えはあるわけですが、本作のチャンバラはまさに斬るか斬られるかを見せてくれるすさまじい殺陣でしたね。
あの50分は映画史に残る名場面となるでしょう。
SOAR
時代劇好き、チャンバラ好きな人には至福の50分だったのではないでしょうか。私は伊原さんの二刀流にしびれてしまいましたよ。
犬食いは斉韶の異常性を表すいいシーンだと思いますが、カットですか~。ラストショットも吹石ちゃんの表情が見事なんですがねえ・・・。もったいない。“アーッなシーン”は・・・なくてもいいけど(笑)
SOAR
5周年同期ということで引き続きよろしくです。
あの切腹、身の毛のよだつ思いでしたよ。あれは強烈でした。でも無駄なグロさやエグさではないですよね。命をかけての抗議、その無情さ悲痛さがビシビシ伝わりました。
そしてラストの斬りまくり。ほんと圧巻でしたね~!
SOAR
私も最近の若手が区別つかない子が多くて・・・。とりあえずNHKのおかげで以蔵とゲゲゲはバッチリなんですが、残念ながら『BECK』は興味なし(笑)
どうせならそのことで話題になるくらい尺が長いのもありだったかなと、本作の場合はそんな風にも思います。まあ三池監督がやりたかったのはやはりラストの戦闘シーンであり、そこにはオリジナルへのリスペクトがあるんですよね、きっと。
“みなごろし”を訴えたあの女性など三池監督ならではのキツイ描写も多かったけど、本作ではどれもいいスパイスになっていましたよね。彼の作品とはどうも相性がイマイチなのですが、本作はかなりど真ん中です!
Maria
>新左衛門の「斬って、斬って、斬りまくれーっ!」
そして刀の血のりを拭き取る場面…好きです!
久しぶりに出向いた映画館、期待に応えてくれました
グロテスクとも言える場面、夕食に思い出して困りました--;
でも実際は百姓娘の場面に涙してしまいました
SOAR さんのレヴューも大変楽しく読ませて戴きました
いつもながら素晴しいレヴューでございました パチパチパチ
TB させて頂きますね
SOAR
暴君暗殺話ながら刺客たちによる仇討ちではないし、彼らが明石藩の人間ではない以上クーデターでもありません。
依頼を受けた第三者たちが命を取りに行くということで、これは『仕事人』に共通するんですよね。
そこがウケている部分なのかもしれません。
新左衛門が心を動かされるあの娘は、我々観客にとっても衝撃でした。その身の上を聞かされその姿を見た観客は、いつの間にか14人目の刺客となって映画の中に入り込んでしまうんでしょうねえ。
sakurai
見ごたえあった作品でしたね。
いろいろと賛否両論あるようですが、あたしは天晴れ派です。
平和な時代に、戦士のはずの武士と生まれた本懐をいろんな形で遂げた姿を見たような気がしました。
伊勢谷君と岸部さんは、その対極の姿として、閑話休題だったもですね。
SOAR
三池監督の時代劇ということで、斯くも見応えあるチャンバラが生まれましたね。
大河の戦国時代物に出てくるような目をギラギラさせた武士とは明らかに違う面々が、刀を振り人を斬ることに徐々に陶酔していくようなある種異様な雰囲気もよく出てたと思います。まさに本懐を遂げた戦士たちですね。
pata
先々月の日記ですが、お邪魔させていただきます。
『十三人の刺客』は見応え抜群で、久々に熱い気持ちになれる映画でした。
4回見たのですが、まだまだ見たい!と思わせてくれます。
早くDVDなりブルーレイを発売してほしいです。
SOAR
よ、4回ですかっ!?
それはすっかりハマってしまわれたようですね。おっしゃるように見応えのある骨太の熱い映画でした。
終盤の殺陣はこれぞチャンバラという印象で、私もすっかり見入ってしまいましたよ。
ふだんなかなかリピート鑑賞ができない私としても、早くのDVD化を期待したいところです。