『コクリコ坂から』・・・少女よ君は旗をあげる

東京オリンピックを目前に控えた日本。舞台は横浜。純真な少女と少年の恋模様は途中ドキリとするような展開も交えつつ、それでも最後は実に清々しい希望あるエンディングへとつながってゆく。
ジブリならではのファンタジー色はほとんどないが、登場人物すべてが優しくて温かくて爽やかで、後味が絶品のアニメーションだった。

校内の部室棟取り壊しを巡るドタバタと下宿の住人たちの日常風景の中、観客が惹かれていくのは海と俊の恋の行方だ。親しさを増すふたりにとって衝撃の事実が判明するのだが、それを知った上で想いを伝える海の告白シーンはとにかくまっすぐで、胸がキュンとなってしまった。
この“衝撃の事実”には時代ゆえの裏話があり、それが少しずつ解明されていくにつれ沈んでいた二人の表情が徐々に明るくなっていく感じも実によい。

で、惜しむらくは海と俊が育んでいくこの恋模様の描き方が何かこうあっさりし過ぎていること。古きよき時代を思わせる学校でのドタバタ劇も楽しくていいのだが、どうせなら若い恋人たちにもっともっとスポットを当てた劇的なラブストーリー仕立てでもよかったように思う。

海が「メル」と呼ばれているワケ、庭に咲くポピー(ヒナゲシ)の意味、下宿人たちの素性など、少々説明が不親切な部分もあったかな。妹の“空”や弟の“陸”(この兄弟は自衛隊かっ?)の扱いにも中途半端さを感じてしまった。

そうそう、疑問がひとつ。
海の父親が朝鮮戦争で戦車揚陸艦(LST)に乗り組んでいたという設定があり、実際にLSTが攻撃を受けてるシーンも出てくるのだが、日本がこういう形で朝鮮戦争にかかわったというのは史実? ちょっと調べてみたところ海保の掃海部隊の派遣はあったようだけど・・・。
海の父親が船の事故で亡くなっているのは原作どおりなのだが、本作ではなぜわざわざ朝鮮戦争を絡めたのだろう・・・・・謎。



まあそれでもとにかく、吾朗監督が本作に注いだであろう優しさは世代を問わず多くの人に伝わるのではなかろうか。過去のジブリ傑作群と並べて語るには少々世界観の小さな物語ではある。けれど、そこからじんわりとにじんでくるホッコリとした温かさはなかなかに心地よい。
夏休みを前に大作や人気シリーズ目白押しの映画館にあってホッと一息つけるような、そんな優しさあふれる良作がここにある。

この記事へのコメント

  • BROOK

    たしかに海がなぜ“メル”と呼ばれているかの理由が語られていませんでしたね。
    ネットで検索すれば答えは分かるのですが、それでもきちんと説明して欲しかったと思います。

    今回のジブリ作品は子供向けというよりは大人向けでした。
    ラストはほっこりした余韻が残りました。
    2011年07月16日 20:35
  • にゃむばなな

    ある方の解説だと、高度経済成長の最大要因となった朝鮮特需は、海にとって父を奪った戦争がもたらした恩恵。
    彼女はそのジレンマの中で青春を過ごす。
    それがあの時代に生きていることだそうですよ。
    う~ん、なかなか深い!
    2011年07月16日 21:59
  • SOAR

    BROOKさん、こんばんは♪
    “メル”と“コクリコ”、原作コミックを事前にパラパラっと眺めたときに目に留まっていたので頭に入ってました。まあどうしても必要な情報ではありませんが、説明があったほうがすっきりするかもしれませんね。

    たしかに子供が喜ぶ作風ではないです。でも、隣の親子連れ、上のお姉ちゃん二人はけっこう真剣に見入ってたようです。彼女たちなりに惹かれるものがあったのでしょう。ママに抱っこされた末っ子ちゃんはぐずってたけど(笑)
    2011年07月19日 23:40
  • SOAR

    にゃむばななさん、こんばんは♪
    朝鮮特需がもたらした高度経済成長に、父の死と豊かな生活が重なるということなんですね、彼女にとっては。
    海以外の学生たちも実に活き活きと描かれていましたが、彼らの多くも同じようにそうしたジレンマを抱えながら青春していたんでしょうね。
    なるほどこりゃ深い。
    2011年07月19日 23:40
  • 悠雅

    スタジオジブリの作品だから、と、夏休みの子供会の映画鑑賞に、この作品を選んだところが多い様子。
    連れて来られた小学生たちに、あのガリ切りがどう映ったでしょう。
    「若い子たちは、ガリ版を知らない」と聞いて、ものは試しに27歳の愚息に尋ねたところ、全く観たことも聞いたこともないのだとか。
    で、詳細に原紙や鉄筆、ガリ版などを説明するのだけれど、
    彼は「俺、気づいたら家にワープロあったし、高校生でプリンタ使ってたし…」と中途半端な感触(笑)
    わたしでも、あの時代は幼児でしたから、わかるような知らないような世界でしたが、
    こういう作品を観ると、お話の内容よりも自分の青春時代の記憶が蘇ることが多くて、
    まともな感想が書けな(いつも、まともじゃないか…)くなってしまいます。
    で、映画の途中から頭の中に聞こえてきたのが、『上を向いて歩こう』でも主題歌でもなく、
    布施明が歌う、青春ドラマの主題歌だったという、
    わたしにとってちょっと不思議な作品でした。
    2011年07月21日 20:44
  • リコリン

    お久しぶりです。珍しく映画についてコメントします!

    今日、長女とオチビを連れて観てきました。

    ジブリ作品はビデオでずいぶん観入っていたいたオチビでしたが、かなり早い段階から『眠い~』を連発。
    二人の衝撃の事実が発覚した途端に『おしっこ~』。
    一番大切な部分を見逃しました。
    幸いにも朝一番の上映だったのであまり他のお客さんに迷惑をかけることなく退席でき、戻ってからも隅の席で鑑賞できました。(オチビは相変わらずウダウダしていましたが)

    それに対し長女は、食い入るように最後まで観ていました。

    『オチビにはまだわからないだろうね~。私にはわかりすぎるほどわかったけど!』と語っていました。


    青春だなぁ~というありきたりなのは私の感想です。
    2011年07月24日 19:18
  • SOAR

    悠雅さん、こんばんは♪
    ガリ版の絶滅(笑)はいつ頃でしたっけねえ・・・。
    小学校のときの記憶は鮮明にあるのですが、中高での記憶は全くないです。ワープロやコピー機の普及で姿を消したんですね。

    本作、内容は拍子抜けするほどあっさりで感情移入もイマイチできない上に明確なメッセージも特にありませんでしたね。なのに印象は悪くないのが不思議なところ・・・。
    きっとアラフォー以降の人たちだけが感じ取れる懐かしさや切なさがあったのでしょう。当時好きだった歌手、好きだった歌、好きだったテレビ番組、好きだった漫画雑誌、そして好きだったあの子・・・。

    >お話の内容よりも自分の青春時代の記憶が蘇る

    ほんとそんな作品でした。
    2011年07月27日 00:31
  • SOAR

    リコリンさん、こんばんは♪
    プライベートでパソコンに向かう時間がめっきり減ってしまいまして、園芸記事を書く余裕のない今日この頃です。

    少々重い話ではありましたが最後はとりあえずのハッピーエンドでよかったですね。
    ただトトロやポニョ好きのチビッコが楽しめる作品ではなかったですね~。最近のジブリは駿路線からの転換をあれこれ模索しているようにも感じますし、そんな中で生まれた新しいジブリ映画なのかもしれません。
    ずいぶん手が加えられたとはいえ原作が少女コミックですから、お姉ちゃんには伝わるものがあったんでしょうね。

    時代は違えど私も自分の青春時代に重ね合わせて観てしまいました。
    2011年07月27日 00:31

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