『聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-』・・・真のリーダー

1941年12月8日、帝国海軍の下す苦渋の決断によりこの国は戦争へと突入した。太平洋上機動部隊空母6隻の攻撃隊一波二波合わせて約350機がオアフ島真珠湾を目指す。
対米戦回避をギリギリまで唱えながらもこの奇襲攻撃を立案することになる山本五十六が、連合艦隊司令長官就任からブーゲンビル島上空で戦死するまでに何を見つめ、何を憂い、何を思いながら戦争への道を進んでいったのか。真珠湾攻撃、ミッドウェーの惨敗、ガダルカナルの救出作戦を経て非業の死を遂げた一人の軍人のリーダーとしての生き様が感慨深い。

ミッドウェー海戦の場面では、空母赤城艦上での度重なる艦載機の兵装転換や、空母飛龍と山口少将の最期といった連合艦隊にまつわるよく知られたエピソードを交えつつも、後方の旗艦大和に乗る山本の目線で描かれていく。敵空母の存在に翻弄されての兵装転換が結果命取りとなり、その空母から発艦した艦爆の急降下爆撃により赤城、加賀、蒼龍、そして飛龍の4空母をあっという間に失った山本の無念。開戦の日、真珠湾でもし空母を一隻でも沈めていたらあるいは・・・。

幾度となく映像化されているブーゲンビル島上空での山本の最期。CGとミニチュアによるVFXの完成度は昨今のこの手の邦画としてはかなりレベルが高く、加えて直援機パイロットの表情や彼の目線を巧く使ったカメラワークがとにかく秀逸。
P38の編隊に襲われ2番エンジンから火を噴く一式陸攻に、直援の零戦がなす術もなく寄り添う。陸攻機内では、微動だにしない山本。覚悟を決めじっと目を閉じているのか、そして日本の戦後を思うのか、あるいは既に事切れているのか。
追尾を断念した直援機のその先を徐々に降下していく山本機の後ろ姿。そして・・・墜落。
本作でのこの撃墜シーンは単に“撃たれました落ちました”という表現に留まっておらず、機内の山本だけでなく乗機の一式陸攻さえもが寂しく儚く悲哀に満ちていて、VFXの出来のよさはもちろん作り手が込めたであろう様々な思いまでじわりと伝わってくる名シーンだった。

多くの映画に登場する山本はいずれも威厳に満ちつつも情に厚く、知略に優れた名将として描かれる。組織のリーダーとしてのお手本のような人物像であり、彼の残した数々の語録とともに企業研修などで引き合いに出されることも多いだろう。
本作は戦争映画ではあるが戦闘シーンに時間を割くことなくあくまで山本五十六にスポットを当てた作品である。誰よりも開戦に反対しながら、その火蓋を自ら切ることとなった苦悩。その後も軍令部や航空司令との対立の中で、それでもなお絶大な支持を集め、常に部下を思い家族を愛し、祖国の行く末を案じ続けたその姿は、真のリーダー像としてやはり魅力にあふれている。
大きな震災からの復興を目指す今の日本にこそ、彼のような大きなリーダーが必要なのだが・・・。

この記事へのコメント

  • BROOK

    大迫力の戦争映画といった感じではなかったのが高評価かもしれません。
    山本五十六という人間を丁寧に描いており、
    それがかなり新鮮に感じました。
    役所さんの抑えた演技が良かったと思いますね。

    もちろんCGの戦闘シーンは迫力があり。
    日本映画としては、かなり頑張っている方ではないでしょうか。
    2011年12月25日 12:06
  • SOAR

    BROOKさん、こんにちは♪
    フィクションならともかく、史実に基づく戦争映画は今さらな気もしますので、おっしゃるように迫力勝負の戦争映画でなかったことを評価ですよね。
    熱い役どころの多い役所(シャレじゃないっす)さんが、寡黙な(でも熱い)軍人を見事に演じてましたね。

    私も場面は少ないけれどCGシーンは非常にリアルだったと思います。邦画特撮の場合CGよりも精密なミニチュアを使う作品が好みなんですが、今回のCGはよくできてました。
    2011年12月25日 15:30
  • にゃむばなな

    「儚い」という言葉はこの映画にはぴったりですね。
    山本長官の無念さが伝わってくるあのラバウルの空。
    こういう人物が志半ばで散っていくのは本当に淋しいことですよね。
    2011年12月25日 15:56
  • SOAR

    にゃむばななさん、こんばんは♪
    豪快な死に様ではなく静かに儚く死にゆく姿が、ジャングルに向け遠ざかっていく機影とともに印象深かったです。
    もし山本が戦死しなかったら、あの戦争の結末は違っていたのかも知れませんね。
    2011年12月26日 00:12
  • やっちゅ

    いつもTB返しありがとうございます。

    役所広司の演技見事でした。

    五十六の主張や考え、人柄は素晴らしく、現代でも彼のようなリーダーが存在して欲しいと思います。

    私達国民も理想のリーダーばかり求めているだけではなく、彼が言うように常に物事の本質をみていくことや、目や耳や心を世界に開いていかなければいけないと感じます。

    この映画、原作の半藤氏が自身でも山本贔屓だと語っていることや、五十六の出身地の長岡市や新潟のメディアや高校OBなどが制作に関わっていることなどから、よい面ばかりだけが並べられているせいか、映画としてのメリハリに乏しかったようにも思いました。

    Wikipediaなどで五十六のことを見ると、好意的な評価も多いですが、批判的な評価も多く見られます。批判的な評価に関するエピソードを盛り込んでいくと、もっとメリハリが付いたのかと思います。

    話は変わりますが、もしよろしければ僕のサイトとの相互リンクをお願いします。
    サイト名:映画とライトノベルの日常自販機
    リンク先URL:http://sugiyama.tv
    2011年12月26日 09:56
  • SOAR

    やっちゅさん、こんにちは♪
    過去の人物の話となると、当時の記録や資料などから人物像を推測することになるかと思います。ドキュメンタリーでない以上ある程度の方向付けも必要でしょうし、賛否ある中でのそれはやはり大変な作業なんでしょうね。
    例えば秀吉にしろ新撰組にしろ、作品によってはかなり悪いヤツになってますし、まあ作り手の解釈を楽しんでみるのもまた一興かと。

    真珠湾に敵空母がいなかったことに対する山本の思いや南雲との対立等、よく知られている史実をうまく膨らませていた点はよかったですね。お茶漬けのシーンとか。

    相互リンク、こちらこそよろしくお願いします。
    2011年12月29日 14:16

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