陸軍のグリーンベレーやデルタフォースに比べると、同じ米軍特殊部隊ながら海軍のシールズ(U.S.NAVY SEALs)は知名度が低めかもしれない。が、このシールズ、何かと映画に登場する機会の多い部隊でもある。最近では『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』終盤での活躍があった。
ちなみにシールズ登場作品で私が推すのは『ザ・ロック』。主役として描かれるわけではないが、マイケル・ビーン率いるシールズがニコラス・ケイジとショーン・コネリーとともにアルカトラズへ潜入し、海兵隊のエド・ハリス一派と対峙するあのシーンは何度観ても手に汗握る。もともとマイケル・ビーンはシールズに縁のある俳優なので、『ターミネーター』のカイル・リースに惚れたという彼のファンなら、知らず知らずのうちにシールズの活躍ぶりをスクリーンで目にしているかと思う。
前置きはほどほどにして、さて本作。
正直ここまで見応えある作品だとは思っていなかった。単にマニア心ゆえの興味で観に行ったのだが、いやはやこれは傑作だ。ありそうでなかったジャンルで描く新感覚ミリタリーアクションとでも言おうか。注目すべき異色作である。
海に空に陸にと、シールズならではの作戦行動を一通り紹介していくかのようなドキュメンタリー的展開ながらそのストーリーにチープさがない(あるけど感じさせない)のがまずすごい。アクション映画としては致命的にもなりかねない一発必中のライフル捌きも、本作では逆にリアルな迫力がある。真の戦闘ではそうそう無駄弾をばらまくわけにはいかないのだ。慎重にタイミングを計ってのオンリーワンショット。ライフルだけでなくロケットランチャーの射撃の際にもそんな様子が見られた。
場面ごとに複雑な表情を見せるチーム7の面々が、役者ではなく現役のシールズ隊員だというからこれまた驚きである。確かに俳優然とした個性は弱いのだが、戦闘シーン以外での演技にも一切の違和感がなかった。
武器密輸組織に拉致されたCIAエージェントの救出作戦を遂行したシールズ・チーム7。その後彼らはこの事件を発端としたアメリカ本土を狙う大規模なテロ計画阻止作戦へと任務を拡げていく。と言っても、よくあるミリタリーアクション作品のようにペンタゴンや大統領といった国家レベルでの動きなどは全く描かれない。ドラマの盛り上げに効果的な家族愛パートも必要最小限にとどめ、ストーリーはただただチーム7の行動を追い続ける。某刑事の名言のごとく事件は現場で起こっているのである。
今や米軍映画に欠かせないヘリがUH-60ブラックホークだが、海軍シールズということで本作に登場するH-60は海軍仕様のSH-60シーホークとMH-60ナイトホーク。哨戒ヘリのシーホークをこの手の作戦に投入するとは、さすがネイビー!
同じく映画登場率の高い輸送ヘリCH-47も、本作ではちゃんと特殊作戦用のMH-47になっていた。機首に伸びる太い空中給油プローブがMH-47の証。
他にも手投げ式の無人偵察機や、MH-47に吊り下げて空輸されるRHIB(特殊ボート)の運用方法など、戦闘機や戦闘車両とは一味違う特殊装備が目白押し。
で、そんな中でも圧巻だったのが潜水艦! すうっと(イメージとして)音もなく浮上するとゾディアックで乗り付けたシールズ隊員を即座に収容し、再び音もなく潜航。あっという間に仲間を回収して海中に消えていく・・・。
そんなオハイオ級原潜の甲板に(失礼ながら)無骨に設置されたドライデッキシェルターの異様っぷりがとにかく渋い。シェルター内部のSDV(シールズ潜水艇)の水中発進シークェンスも非常に興味深かった。シールズ隊員は潜水艦内部からドライ状態でシェルター内に移動しSDVの準備にかかる。その後シェルターに注水されると後方のハッチが開き、隊員を乗せたSDVが水中へと離脱する仕組み。この一連の流れ、概要の知識はあったのだが映像で見たのは初めてだったので、かなり興奮してしまった私(笑)
一匹オオカミの兵士が勝手に動き回って事態が解決していくタイプの映画も大好きだが、それは所詮作り話。本作での潜水艦とゾディアック、脱出車両とRHIBがそうだったように、単独行動ではなく複数チームによる秒単位での連携に作戦の成否がかかっているのがリアルな戦闘なのだろう。
終盤、隊長の大尉が敵の投げた手榴弾に覆いかぶさって仲間を守るシーンがある。これはアフガニスタンでの実際の出来事がモチーフとなっている。水中あるいは水際での作戦が主任務と思われがちなシールズも、イラクやアフガニスタンのような内地での陸上作戦に普通に参加しているのである。
昨年5月、パキスタン潜伏中のビンラディン邸に奇襲攻撃をかけたのもシールズだ。
大尉の葬儀に参列した隊員たちが、シールズの記章をひとりひとり棺に素手で打ち付けていく様子が印象的だった。最初の救出作戦で片目を失ったマイキーと、テロ首謀者との戦闘で何発も銃弾を浴びた副官。重傷を追いながらも生還したこの二人が戦死した隊長に向けるまなざしは、どんな優れた俳優にも出すことのできない真の軍人ならではの本物の表情だと感じた。
対テロ対ゲリラ戦、人質救出作戦に投入されるのが特殊部隊。冷戦時代の終結により国家間戦争よりもテロや海賊行為等が世界的な脅威となっている昨今、心身ともに鍛え上げられた彼らのような少数精鋭部隊の活動が世界平和の鍵を握るといっても過言ではないのかもしれない。
ミリタリーファンだけでなく、多くの映画ファンもまた満足の出来る作品だと思う。
ぜひ劇場で。
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この記事へのコメント
オリーブリー
本当にあったことなんですね…。
やっぱりお詳しい方には、細かい箇所まで見所が満載なんですね~!!
SOAR
特殊部隊ってベールに包まれた感じで気になります。陸上自衛隊にも特戦群なる部隊があるのですが、装備する武器や人員構成などは非公開。気になる気になる~。